ヨーロッパ人は隣国の言語を知らなくてもなんとなく理解できるらしいという話を聞いたことがあって、半信半疑ながら調べてみました。
そもそもヨーロッパの言語は同系?
ヨーロッパで話されている言語の多くはインド・ヨーロッパ語族(印欧語族)に属しており、もともとは約6000~9000年前に話されていた1つの言語(印欧祖語)から派生したと考えられています。*1当時はもちろん文字なんてないので、各言語での音の対応関係を探しながら理論的に証明されたものです。そのため単語や文法構造が類似していて、お互いの言語は比較的学びやすいと言われています。
印欧語族はさらにいくつかの語派に分類されています。初めて見る人は何が何だか分からないと思いますが、とりあえず太字の3つだけ把握していればOKです。いわゆるゲルマン系、ラテン系、スラブ系といわれているもので、この3語派だけでヨーロッパ人の9割が使う言語をカバーしています。
・印欧語族
・ゲルマン語派
・イタリック語派
・ケルト語派
・スラブ語派
・バルト語派
・インド・イラン語派
・ギリシャ語
・アルバニア語
・アルメニア語
これがヨーロッパの言語分布地図です。ちょっと注意してほしいのが、あくまで各国で一番母語話者の多い言語しか表示していない点です。実際はもっと複雑で、1つの国で複数の言語が話されている例もあります。*2
それでは、同じ語派の言語ならお互いに理解できるんでしょうか。
ゲルマン語派
ゲルマン語派には英語やドイツ語など、日本人にも比較的馴染み深い言語が分類されています。ゲルマン語派の中では、英語・オランダ語・ドイツ語と、アイスランド語・ノルウェー語・スウェーデン語・デンマーク語がそれぞれ近いようです。国ごとに通じるのか調べてみました。
どちらも英語なので通じます。アイルランドは数百年にわたってイギリスに支配された歴史があり、英語が広く使われているようです。憲法上はアイルランド語が第1公用語、英語が第2公用語ですが、実際はほとんどの地域で英語が日常的に使われています。
ドイツとオーストリア、スイス*3はドイツ語圏なのでそれなりに通じるようです。ただし、そもそもドイツ語は地域によって差が大きい言葉らしく、北部の低地ドイツ語と中南部の高地ドイツ語はかなり異なっています。オーストリア、スイスのドイツ語は南部のドイツ語と近いため北部の人には難しく感じられるようです。
ドイツとオランダ
ドイツ語とオランダ語は似ているのでめっちゃ頑張ればなんとなく通じるみたいです。書き言葉はある程度分かるけどペラペラ早口で話されると無理くらいの感覚のようです。
イギリスとオランダ
こちらも似た言語ですね。よくオランダ語は英語とドイツ語の中間と言われますが、オランダでも英語はかなり通じるらしいです。ただこれは、オランダにバイリンガルの人が多いからだと思われるので、英語を知っていてもオランダ語が理解できるわけではないと思います。*4
北欧3兄弟みたいな言語たちですね。お互いにある程度の理解ができるようですが、デンマーク語はモゴモゴと発音するので聞き取れないという声も。ちなみに同じ北欧でもフィンランド語は印欧語族ではないため大きく異なる言語です。
イタリック語派
フランス語やスペイン語など世界的に使われる言語があるためゲルマン語派と並んで身近な言語たちだと思います。現在生き残っているイタリック語派の言語はすべて、古代ローマで話されていたラテン語の子孫*5です。*6古代ローマがどれだけの影響力を持っていたかを感じさせられますね。
やっぱり気になるのはここですよね。ポルトガル人はスペイン語を結構わかるのに対し、スペイン人はポルトガル語はなんとなくでしか理解できないらしいです。スペイン語のほうが文法が簡略化されていて分かりやすいのと、ポルトガルでもスペインのTV番組がよく見られているのが影響しているようです。
フランスとイタリアとスペイン
ちょっと厳しいです。お互いの言語を学んでいるか、本当に国境沿いの人でないと通じないと思います。*7
これは100%無理ですね……。もう一度上の地図を見てほしいのですが、イタリック語派の中でもルーマニア語だけは地理的に孤立して変化していったので、他のロマンス諸語と異なる部分が多いんです。ただ、ルーマニアだけでなくモルドバでもルーマニア語を話すので、そういった意味では隣国の人と会話できるとも言えますね。
スラブ語派
ゲルマン語派やイタリック語派と違い、ロシア語以外は名前すら聞いたことない言語ばかりという人が多いかもしれませんね。
この3つの言語は東スラブ語群に属し似ています。また、旧ソ連だったこともあり、ロシア語を理解する人が多いです。ベラルーシの場合、ベラルーシ語とロシア語が両方とも用いられており、ロシア語が母語という人も非常に多いです。冷戦終結以降のヨーロッパでは政治的にロシアと距離を置く国が多い中、ベラルーシはロシアと親しい珍しい国だというのも関係しているかもしれませんね。
ウクライナは少し触れづらいのですが、地域によって大きな差があるようです。西部はほとんどウクライナ語しか使われませんが、東部ではウクライナ語とロシア語が両方とも使われているようです。*8ウクライナ語の文法はロシア語と似ている一方、ポーランドの支配も受けたことから単語はポーランド語とも類似しているようです。
かつてチェコスロバキアという1つの国だったことから、互いに方言程度の違いしかなく理解しあえるようです。特にスロバキア人はチェコ語の文章をよく目にするため、チェコ語もよく理解できることが多いです。ポーランド語も比較的近く、なんとなくであれば理解できるようです。
この4ヶ国の言葉が似ているのは聞いたことがある人もいるかもしれません。ユーゴスラビア時代はセルボ・クロアチア語と呼ばれて1つの言語とされていましたが、ユーゴ紛争で分裂してからは各国の人が別々の言語だと主張するようになってしまいました。とはいえ方言程度の違いであり、お互いの言っていることは理解できるようです。
一目で分かる違いとしては、クロアチア語がラテン文字を使用するのに対し、セルビア語はキリル文字とラテン文字を併用しているようです。
マケドニアは言語的にブルガリアととても近く、マケドニアはマケドニア語という言語だと主張するのに対し、ブルガリアはブルガリアの1方言だと主張しており厄介なことになっていますが、いちおう会話は通じるようです。
バルト語派
ラトビア語とリトアニア語が含まれます。スラブ語派と合わせてバルト・スラブ語派とも呼ばれます。
言語学的には近縁にある2つの言語ですが、意思疎通が図れるほどではないようです。同じバルト3国でも言語はバラバラですね。
その他
どちらもアルバニア人が住みアルバニア語を話します。ただしアルバニア語のみで1語派を形成しているので他国の言語は理解できないみたいです。
同じウラル語族フィン・ウゴル語派バルト・フィン諸語に属していますが、意思疎通は困難です。ただしエストニアの年配の方はフィンランド語を理解することもあるようです。文章で書かれていればところどころ理解できる程度の差だそうです。
まとめ
ここまでヨーロッパ各国の言語事情に触れてきましたが、「ヨーロッパ人は隣国の言語を理解できる」というのはあながち嘘ではないのかもしれませんね。我々日本人は、日本語と一番似ている韓国語すら全然理解できないですし、同じ漢字を使っている中国語もせいぜいじっくり読んで単語が理解できる程度だからうらやましいですよね。
ただ、あくまでも「なんとなくなら」「国境の近くなら」といった条件付きであることを忘れてはいけないですね。多少通じるとはいえ別物なので間違って伝わる場合もあるし、そもそも私の調べた情報源が誇張して書かれている可能性だってあります。
あまり鵜吞みにせず「そうなんだ~」くらいに思ってくださいね。それでは。